このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 アレンが満足そうにうなずいたところで、彼の部下たちが駆け寄ってきた。
「隊長。この辺りの瘴気なのですが……」
 その言葉に目を鋭くしたのは、エーヴァルトである。普段、へらへらとしている彼だが、トリシャが言っていたようにやるときはやる男なのだ。それはクライブも認めている事実であり、裏表が激しいといえばそれまでだが、表をくっきりと演じるための裏なのだろう。気を許した者にだけ見せる裏の姿。
「確認ができませんでした……瘴気がなくなっています。詳しくは、魔法使いたちに調べてもらう必要がありますが」
「そこに私を案内しろ」
 きりっとしたエーヴァルトの声に、騎士たちは「はい」と礼儀正しく返事をする。
 マリアンヌの身体はクライブの腕の中にうつった。
 イリヤたちもエーヴァルトの後ろをついていく。
「いつもであれば、この辺りに瘴気が漂っているのですが……」
「クライブ様、瘴気ってどのようなものなのですか?」
 イリヤは少しだけ背伸びして、彼の耳元で小さく尋ねた。
「黒い霧みたいなものだ。その霧が晴れた場所に魔物が現れるとも言われていて、どういった規則で瘴気が出て魔物が現れるのかは、さっぱりわからない。とにかく、瘴気がある場所から魔物が出てくる」
「そしてその瘴気が時空の歪みと呼ばれるところから?」
「そうだ」
 時空の歪みが瘴気を産み、瘴気が魔物を呼び寄せる。
「その時空の歪みをなんとかしないと、また魔物が出る?」
「ああ。それでも瘴気を祓えば、すぐに魔物は増えない。いずれ、時空の歪みを封じる必要はあるが、今の聖女の力では無理だろう」
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