このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「もう、子どもみたいなことを言って。何が欲しいんですか?」
 近くにあるクライブの顔がもっと近づいてくる。
 唇と唇が触れ合おうとした瞬間、「ふぇっ……」とマリアンヌから声が漏れ出た。
 イリヤが慌ててマリアンヌを見ようとしたら、クライブとごつんと頭がぶつかる。
「いたっ」
「う、うわ~ん」
「イリヤ、すまない。あ、マリアンヌが……」
 イリヤと頭をぶつけたうえに、マリアンヌが泣き始め、クライブもあたふたとし始めた。
「はいはい、マリー。どうしたの?」
 イリヤはマリアンヌを抱き直し、背中をぽんぽんとやさしくなでて宥める。
「まんま?」
「なあに?」
「ぱぁぱ?」
 クライブに向かって手を伸ばしたマリアンヌを、そのままクライブに預けた。
「どうした? うちの聖女様は。急に甘え始めて」
「そういうときもあるんじゃないですか?」
「あ~あ~」
 目尻に大粒の涙をためているマリアンヌは、もうニコニコと笑っていた。
 城館に着くと、すぐさまクライブはマリアンヌをつれて浴室を借りた。魔物の体液が飛び散って、汚れていたのは、マリアンヌもイリヤも同じだった。
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