このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 マリアンヌを着替えさせてから、イリヤも浴室を借りて汚れを落とし、動きやすい平素なドレスを身に付けた。
 イリヤが部屋へ戻ったときには、クライブがマリアンヌの両手を引いて、一緒に歩いていた。マリアンヌは動き回りたいらしい。
「まんま~」
 イリヤを見つけたマリアンヌは、満面の笑みを浮かべた。
 アレンたちもエーヴァルトも、まだ戻ってこない。
「お茶とお菓子を準備してもらった」
 そう言ったクライブが視線を向けたテーブルの上には、お菓子のスタンドが置かれている。
「そう言われると。お腹が空いたかもしれません」
「あ~あ~」
 マリアンヌも、ちゅ、ちゅ、と口を鳴らしている。
「クライブ様。マリーもお腹が空いているようです」
 クライブはマリアンヌを抱き上げ、ソファ席へと連れていく。
「クライブ様、お茶は私が淹れます」
 わざわざそう口にしたのは、今まさに、クライブがお茶を淹れようとしていたからだ。
 夕焼けのような色をした紅茶から、香ばしさが漂ってくる。
 マリアンヌを真ん中にして、三人並んでソファに座る。
「あっ、あっ!」
 マリアンヌは小さなパンケーキを食べたいらしい。手を振って、よこせと騒いでいる。小さく切ってお皿の上に置くと、それを手づかみでもぐもぐと食べる。
「ん~ま~、ん~ま~」
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