このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 些細な仕草が、この場を和ませる。
「クライブ様……」
「なんだ?」
「私、幸せかもしれません」
 その言葉に、クライブの身体がぴしっと固まった。
「……そうか。それは、よかった」
 絞り出すような声が、聞こえた。
 それからお菓子を食べてお腹が膨れると、少しだけ眠くなった。クライブがマリアンヌを膝の上で抱き、三人でそのままうたた寝をする。
 ――ドンドンドンドン
 乱暴に扉を叩く音で、はっとする。
『おい、クライブ。いるんだろ? さっさと食堂まで来い。夕食の時間だ』
 扉の向こうから聞こえてきたのはエーヴァルトの声。
「わかった、今、行く」
 クライブが返事をすると、扉の外は静かになった。
「まさか、エーヴァルト様が呼びに来てくださるとは」
「あれは、マリアンヌに会いたいだけだろ?」
「だぁ!」
 すっきりと目覚めたマリアンヌは、明るい声をあげた。エーヴァルトが耳にしたら、破顔してしまうようなそんな声である。
「マリー、夕飯だって。お腹は空いているかしら?」
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