このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 お菓子を食べて眠っただけ。お腹が空いているかと問われると微妙なところであるが、それでもお腹が鳴りそうな前兆はあった。
「まんま、まんま」
 早く行きたい、と言わんばっかりに手足をばたつかせ、ソファから下りようとする。
「マリー。まだ歩けないでしょう?」
 そんなマリアンヌをクライブが抱き上げ、三人で食堂へと向かった。
 パンッ――!
 食堂の扉を開けた途端に、紙吹雪が舞う。
「マリアンヌ、一歳の誕生日おめでとう」
「あっ、あ~」
 舞い散る紙吹雪に手を伸ばすマリアンヌは、クライブの腕からも逃げ出したいにちがいない。
「エーヴァルト様、これはいったい……?」
「今日はマリアンヌの一歳の誕生日なのだろう? 急いで準備をしてもらった」
 食堂に集まっているのは、先ほどまで共に魔物討伐で一緒にいた彼ら。そしてオロス侯爵夫人もにこやかに微笑んでいる。
 あのときエーヴァルトがアレンに何か内緒話をしていたのは、この件だったのだ。
 エーヴァルトがグラスをあげて、彼らを労い、マリアンヌへの祝いの言葉を口にした。
「おめでとうございます、お嬢様」
 アレンがマリアンヌに向かって大きなうさぎのぬいぐるみを渡そうとするものの、もちろんマリアンヌはそれを抱くことができない。それだけ、大きなぬいぐるみなのだ。
 かわりにイリヤが受け取った。クライブの腕の中で暴れているマリアンヌを、ラグの上に座らせてからぬいぐるみを預けた。
「う~う~」
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