このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「マリー。気に入ったようね」
 大きなうさぎのぬいぐるみと向かい合って座ったマリアンヌは、耳を引っ張ったり腕を掴んでみたりと興味津々である。
 テーブルの上にはご馳走が並べられ、魔物討伐の慰労もかねてのマリアンヌの誕生日会となった。
「マリー。向こうに戻ったら、盛大に誕生日パーティーを開こう」
 エーヴァルトがにこにこと笑みを浮かべているが、クライブがすぱっと「いえ、お断りいたします」と答える。
「クライブ。冷たい。最近の君は、私に冷たくないか?」
「最近? オレはいつもこんな感じですが?」
「いや、違うな。イリヤ殿と一緒になってから、君の塩対応はより塩味を増した」
 またクライブとエーヴァルトのくだらない言い争いが始まったらしい。
「聖女様、お嬢様のケーキも用意したのですが」
 オロス侯爵夫人が、遠慮がちにイリヤに声をかけてきた。
「ありがとうございます。マリー、ケーキだって。ケーキ食べる?」
 マリアンヌが食べられるようにと、甘みも控えめなケーキを準備してくれた。
「イリヤ。ケーキはご飯をきちんと食べてからだろう?」
 エーヴァルトとのどうでもいいやりとりを終えたのか、クライブが口を挟む。
「クライブ様。今日はマリーの特別な日ですよ? 少しくらい、いいじゃないですか」
 ときおりクライブは、融通の利かないところがある。むっと唇を尖らせて彼を睨みつけると、降参だとでも言いたいのか、肩をすくめた。
「オレは、イリヤとマリアンヌには甘いらしい」
「そうか、そうか。クライブもとうとうあまじょっぱくなったのか」
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