このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「陛下は黙っていてください。ややこしくなる」
 本当にこの二人は懲りない。
 イリヤはオロス侯爵夫人からケーキを受け取ると、フォークの上に一口分だけのせた。
「マリー、あ~ん」
「あ~ん」
 うさぎのぬいぐるみに抱きつきながら、マリアンヌは大きく口を開けた。
「ん、ま。ん、ま」
 ちょっとだけ唇の端にケーキのスポンジをつけたマリアンヌは、ご満悦である。
「お嬢様に喜んでいただけて、よかったですわ」
「こちらこそ、こんなによくしていただいて」
 とんでもございません、とオロス侯爵夫人は首を振る。
 魔物を討伐し、瘴気を祓った。さらにマリアンヌが初めて歩いて、彼女の一歳の誕生を祝う。
 とにかく、盛りだくさんの一日であった。
 夜遅くまで、騎士たちは騒いでいたようだが、イリヤたちは先に食堂を後にした。

「クライブ様……今日は、疲れましたね」
 二人の間で、マリアンヌはぐっすりと眠っている。アレンからもらった大きなうさぎのぬいぐるみは、マリアンヌの足元にでっぶりと置かれている。
「そうだな」
 マリアンヌの頭をやさしくなでるクライブは、柔らかな眼差しでイリヤを見つめていた。
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