このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「でも、瘴気を祓うとかって。やっぱりマリーは聖女なんですね……」
 マリアンヌの頭をなでていたクライブの手が、イリヤのほうに伸びてきた。まるでイリヤの体温を探るかのようにして腕をつかむ。
「クライブ様?」
「そういえば、イリヤから褒美をもらっていないのを思い出した」
「え?」
 馬車の中でも褒美をねだられたような気がする。意外と子どもっぽいところがあるのだなと思ったのだ。
 クライブの手はイリヤの腕をゆっくりとなでながら手を捕らえ、五本の指を絡めてくる。
 驚き眼を瞬くと、クライブが身体を起こして、顔を近づけてきた。
 微かに唇と唇が触れ合った。
「……え? え、ええ?!」
「しっ……マリアンヌが起きる……」
「そ、そうですけど。え? な、何をしてるんですか!」
「オレたちは夫婦なんだから、何も問題ないだろ?」
 クライブはイリヤに背を向けて横になると、掛布を肩まで引き上げた。
「あっ……ちょ、ちょっと。クライブ様……」
 慌てるイリヤを無視して、彼は寝たふりをしている。
「もぅ」
 イリヤもクライブに背を向けて、横になる。
 だけど今日は、すぐには眠れそうにない。心臓がドキドキとして興奮していた。
 それは、魔物討伐に行ったからか。それともクライブに口づけをされたからか。
 よくわからない。

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