このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 後日、王宮魔法使いたちがミルトの森へと派遣され、時空の歪みを確認した。
 やはり、瘴気は祓われており、今のところ、新たに瘴気の確認はできなかったとの報告であった。
 それを知ったときのリグナー公爵の顔は見物だったと、クライブは楽しそうに教えてくれた。
 あの日に初めての一歩を踏み出したマリアンヌは、屋敷の中をナナカの手を借りながら歩くようになっていた。そろそろ靴を履いて庭を散歩しようかと、クライブと相談していたところでもある。
 そして、聖女イリヤとしての生活が、やっと落ち着き始めた頃、クライブはイリヤの家族をファクト公爵邸へと呼んだ。
 結婚したものの、結婚式も挙げていない、もちろん披露パーティーもしていない。それをクライブが気にしていたのだ。だから、まずはイリヤの家族を呼んで食事会をし、あらためて結婚式の日取りを決めようという話になった。
 その食事会の場に、イリヤの叔父であり義父でもあるマーベル子爵の姿が見えなかった。
「お母様、お義父様はどうしたの?」
「あぁ。あの人ね。ドミ会長とオロス侯爵領に行っているのよ」
「オロス侯爵領……?」
 それは先日、イリヤも魔物討伐のために足を運んだ場所である。
「えぇ。ミルトの森の近くの村の復興のため? なんか、そんなことを言っていたわ」
 瘴気を祓うまでの間、魔物に襲われた村があったという話も聞こえてきた。時空の歪みに近いその村を、他の場所へとうつすという話も出たようで、マーベル子爵はそれのために侯爵領に滞在していると言う。
「ほら、あの人も、いろんな商会と繋がりがあるわけだから。必要なものを必要なところに安く? まぁ、利用できるものは利用しましょうってことよね」
 とにかく、マーベル子爵が人の役に立つような仕事をしているのなら、それはいいことだろう。
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