このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「あとね、ほら。サブル侯爵も、同じところに行っているみたいで……」
「え? だったら子どもたちは?」
 サブル侯爵の娘たちは、まだ幼い。
「えぇ。それも、新しい家庭教師の方がいらしたみたいで、彼女たちはものすごく懐いているとか……」
「そう……」
 それでもイリヤには腑が落ちない。なぜか、左遷という言葉が頭をよぎった。いや、気のせいかもしれない。
 少し離れた場所で、イリヤの妹たちに囲まれているクライブを見やる。彼は、イリヤの視線には気づかないようで、妹たちに抱っこやらおんぶをせがまれていた。
「だけど、イリヤが幸せそうでよかったわ」
「お母様もね」
「結婚式には、あの人も間に合うとは思うのだけれど……」
「お義父様には、無理しなくていいと伝えておいて」
「あら、冷たい」
 母娘(おやこ)は顔を見合わせて笑った。
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