このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 父親役についてどこまで妥協できるか。
「つまり、閣下と私に結婚しろと?」
「そうだ」
「はぁ? 何をバカなことをおっしゃっているのです?」
 そこで声をあげたのはクライブである。まさか彼も、イリヤと結婚しろと言われるとは思ってもいなかったのだろう。
「バカなことではないだろう? 君も独身。何も問題はないだろう? むしろ、この辺りで結婚しておいたほうが、のちのち楽になると思うが?」
「わかりました、陛下」
 イリヤが声をあげた。
「私、聖女様の母親になります。そのために、閣下との結婚が必要というのであれば……あ~、まあ、その。あれですけれども。……つまり、契約結婚みたいなものですよね?」
「そう。そういうことだ。私はクライブとイリヤ嬢の結婚を求める。だがな、私が君たちに求めるのは、マリアンヌを健やかに成長させる親となること。ぶっちゃけ、君たち二人の関係にはこだわりはない。だが、マリアンヌの父母となるのであれば、結婚という形が自然だろう」
「……ひどっ」
 ぼそりとクライブがこぼした。それでも彼は何かを考え込んでいる。
 イリヤは衣食住のため、むしろ生きるために聖女マリアンヌの母親という仕事を引き受ける。そしてその聖女マリアンヌはすでにクライブの養女となっている。
「クライブ様。無理して引き受ける必要はございません。先ほども言いましたとおり、私は一人で聖女様を育てる自信はあります。私の養女としていただいても問題ありません。それに、聖女様の父親がどうしても必要となったときには、自力でなんとかしますから」
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