このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「自力でね……」
 クライブはあきれたようにイリヤを見やる。
「毒婦、悪女と噂されているお前が自力で伴侶を見つけられるのか?」
「……なっ!」
「わかった、仕方ない……お前を一人にしておくと、何かと不安だ。オレがお前の夫になってやる」
 お断りします。と言いたいところであるが、生活のためだと思ってその言葉を呑み込んだ。
「へぇ。イリヤ嬢は毒婦で悪女だったのか。そうは見えないけれども。人は見かけによらないと言うしな」
 エーヴァルトは楽しそうに笑っている。
「ち、違います。そういう噂があるだけです。悪意を持った噂です」
「まぁ。本物のイリヤ嬢を見れば、噂が噂であって事実とは異なるというのがすぐわかるな。それに先ほどから言っているとおり、君たちの結婚はマリアンヌが健やかに成長するために必要なものであって、マリアンヌがこちらに嫁に来た後は、好きにしてもらってかまわない」
「承知しました」
 エーヴァルトの言葉にイリヤは頭を下げた。
 クライブは困惑の色を瞳に浮かべている。突然、知り合ったばかりの相手と結婚しろと言われたのなら、クライブの態度が自然だろう。
 イリヤは生きるためだと思って割り切っている分もある。むしろ、クライブと結婚したほうが彼らの魔の手から逃げられるかも知れないと考えたのも事実。
「あ、そうそう。マリアンヌが聖女であるというのは、召喚の儀に立ち会った者だけの秘密だ。彼女は、孤児院で見つけた魔力の強い子どもとして保護をし、それでクライブが養女とした。そういうことになっている」
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