このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「なるほど。マリアンヌ様が聖女様であると、周囲に知られないようにしろってことですね」
 その通りだと、エーヴァルトは頷く。
 マリアンヌについては話が作られているが、それがこの国と彼女を守るためなのだろうと理解した。そしてその話を信じ込ませるだけの権力も見せつけられた気分である。
「よし、そうと決まれば。いろいろと準備が必要だろう」
 そう言ったエーヴァルトによって、まずは王妃のトリシャとアルベルト王子が呼び出された。
「よかったわねぇ? クライブ。あなたにも素敵な伴侶が見つかって」
 トリシャのその言い方に少しだけ棘を感じたが、エーヴァルトは「昔からこの二人は仲が悪いのだ」と耳打ちしてくれた。
 そういえばエーヴァルトとトリシャも、政略結婚ではあるものの、幼い頃から顔を合わせていた仲というのは聞いたことがある。
 アルベルト王子は活発な子で、マリアンヌが寝ていようがいまいが、近づいて何かしらちょっかいを出そうとしている。しかし、やっとマリアンヌが眠って落ち着いたこの時間を、エーヴァルトは壊したくなかったようだ。
「そっとしておきなさい」
 何度もアルベルトに言葉をかけていた。
「では、マリアンヌの新居はクライブの屋敷でかまわないな?」
 イリヤとしては、反対はない。むしろ住む場所がないのだから、準備していただきたい。
「ええ。オレはかまいません。どうせ、部屋はあまっていますしね」
「乳母やメイドはどうする?」
「それは、おいおいと。オレの妻になる人物は子守りに自信があるようですからね?」
「え?」
「なんだ? オレがいなくても、一人で聖女様を育て上げようとしたのではないか?」
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