このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
第二章:契約結婚? いえ、雇用関係です!
 部屋の片隅で、上半身裸のクライブは膝を折って座っていた。彼に説教を垂れているのは、昔からファクト家に仕えている執事のチャールズである。
「旦那様。いくら結婚したと言いましても、嫌がる女性を無理矢理手籠めになさるのは、男として恥じるべき行いです。ましてお二人は、契約結婚のようなものとお聞きしております」
 クライブが結婚した。それはファクト公爵家に仕える誰もが驚き、そして喜んだ。その経緯がエーヴァルトの戦略によるものであって、二人の間に愛情がないものであると、彼らは知らない。
 とにかく使用人たちも涙を流して歓喜に震えるほど、クライブには女性に興味がなかった。だからといって、男性に興味があるわけでもない。結婚は煩わしい、そう思っていた男なのだ。それが態度にも表れており、まず、普通の女性であればクライブに近づかない。
「近づくな」「黙れ」「失せろ」と、それが彼に近寄る女性たちがクライブからかけられる三大語句である。たいていは、この三大語句を言われ、おずおずと逃げ出す。その後、二度とクライブには近づかない。だから、毒舌宰相とか冷徹宰相とか、そう裏では呼ばれていた。
 そのクライブがいきなり結婚して帰ってきた。まだ書類上だけの関係であったとしても、公爵家の使用人一同は、この公爵夫人を逃すわけにはいかないと思っているのだ。
 彼らはまた、国王エーヴァルトの命令によって、一人の子を養女にしたことを知っている。その子は魔力が強いため、書類上はクライブの娘だが、王城で預かっていたということも。
 だが、クライブの結婚によってその養女も一緒に屋敷で過ごすこととなった。
 その話を聞いた使用人たちは、マリアンヌが快適に過ごせるようにとすぐさま部屋を整えた。残念ながら、まだ赤ん坊用の寝台はない。それでもすぐに王城から届くはずだと、クライブは言っていた。
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