このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 とにかく慌ただしく準備がすすみ、なんとか休める場所の確保ができた。
 そしてイリヤがマリアンヌと一緒に寝ようとしたところ、それをクライブにとめられた。マリアンヌの部屋は隣に用意したし、まずは彼女をその部屋に慣らすのが大事ではと、至極まっとうなことを口にしたのだ。
 マリアンヌの夜泣きなどが気になったイリヤではあるが、クライブはマリアンヌに専用の侍女をつけた。だからイリヤクライブの言葉を信じ、一人で寝台に潜り込んだ結果――あれだった。
 イリヤの感情が追いつかず、いつもは抑えていた魔力が暴発した。ボンと部屋に大きな空砲が鳴って、その結果クライブを吹き飛ばす。さらにその勢いで、長椅子やらテーブルやらの調度品がひっくり返ったが、これはイリヤの魔法ですぐに元通りになった。
 それでもあれだけ大きな音がすれば、誰だって心配になるだろう。まして夫婦の寝室。
 駆け込んできたのはチャールズで、上半身裸のクライブが寝台の下に吹っ飛ばされていて、装いの乱れたイリヤが寝台の上で掛布を胸元まで引き上げていたら、何が起こったかを察したようだ。
 幸いにも、クライブは眼鏡をかけていなかったので、眼鏡だけは無事だった。
 そこでくどくどとチャールズの説教が始まった。彼はイリヤの味方である。チャールズだけはこの結婚の真相を知っているからだ。クライブがイリヤに惚れて結婚をしたわけでなく、マリアンヌを将来の王子妃とすべく、教育を任された。そのためだけの結婚。
「いいですか? 旦那様。まだ結婚式も挙げておりませんし、お二人の結婚は政略的なもの。これから少しずつお互いを知り、心を許し合えるような関係になってから、そういったことをお願いします。いくら夫婦であっても、嫌がる女性を無理矢理手籠めにしましたら、強姦とかわりありません」
「……もう、そのくらいでいいわ、チャールズ。今回の件は、その……私も悪かったので……」
「奥様は女神様のようにお心が広い。どうかこんな(けだもの)のような旦那様ではありますが、愛想を尽かさず、末永くお願いいたします」
< 39 / 216 >

この作品をシェア

pagetop