このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「もう、なんでも食べようとして。だめよ、これは」
 まだハイハイはしないものの、寝返りを打ってごろごろと動く時期だ。そして何かを見つけては、口に入れる。
「マリアンヌ様。ではお着替えをしましょうね」
 エーヴァルトやクライブの話を聞いていたかぎりでは、手のかかる赤ん坊のイメージがあった。だけど今のマリアンヌは、ナナカの言うことを聞いて、おとなしく着替えをしている。
「マリアンヌのことをお願いしてもいいかしら? 私も着替えてくるので」
「はい、奥様。おまかせください」
「あ~、う~」
 マリアンヌも「大丈夫よ」と言っているかのよう。
「マリー。ママも着替えてくるわね」
 イリヤはマリアンヌの部屋を出て、寝室へと戻る。
 困ったことに、イリヤはこの部屋しか知らない。二人の寝室がイリヤの部屋になるのだろうか。とりあえず昨日は休むためにあそこを案内されただけだったのだろうか。
「……あっ。おはようございます」
 寝室に入ると、ちょうどクライブが目を覚ましたところだった。むしろ、イリヤが部屋に入った物音で目が覚めたのだろう。
 その無防備な姿に、イリヤは目を丸くする。
「おはよう……昨日は、すまなかった……」
「え?」
 クライブが素直に謝罪した。その事実にやはり驚きを隠せない。
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