このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「チャールズにこっぴどく叱られた」
 そんな彼がちょっとだけ幼く見える。前髪が下がっているせいだろうか。眼鏡をかけていないせいだろうか。
 第一印象が印象なだけに、目の前の彼がキュウッと心臓が締め付けられるほどかわいく見えた。だが、困ったことに彼は服を着ていない。ちょっとだけ目のやり場に困ったため、少しだけ顔を逸らした。
「どうされたのですか? 急に謝罪などをして」
「いや……。結婚した男女はその日のうちに契り合うものだと思っていたのだが、どうやらそうではないということをチャールズから聞いた。だから、申し訳ないことをした」
 今のクライブの言葉には引っかかるものがある。
 その日のうちに契り合う。つまり、身体を重ねるという意味であるが。
 想い合って結婚した男女であれば、そうなってもおかしくはないだろう。だが、イリヤとクライブは契約結婚みたいなものである。それをわかっているのだろうか。
「ええと。誰からお聞きになられたのですか?」
 眼鏡を差し出しながらイリヤは尋ねる。
「何をだ?」
 眼鏡を受け取ったクライブがそれをかける。がらりと彼の雰囲気が異なった。
「結婚した男女はその日のうちに契り合うって。まぁ、昨夜は私たちにとっては初夜と呼ばれる日であったかもしれません。ですが、出会って十時間の相手に身体を許すだなんて、私には無理です。私としては、身体が結ばれるよりも先に、心をわかり合いたいのです」
「イリヤは、昨夜もそう言っていたな。だからオレを好きになれと言ったのだが」
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