このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 またそういうことをしれっと口にする。
「閣下。好きになれと言われたからって、好きになるものではありません」
「だったら、オレが嫌いなのか?」
「うっ……」
 嫌いかと問われると、嫌いではない。何よりも、彼はある意味、命の恩人だ。
「……嫌いでは、ありません」
「てことは好きなんだろ?」
「それは……あ、あれですよ。好きでもない、嫌いでもない。普通です」
「普通……このオレが普通だと?」
「そうです、普通です。ですから、こうやって一つ屋根の下で暮らすのは苦痛ではありません」
 ところで、とイリヤは話題を変える。
「さっきの変な情報を、閣下に吹き込んだ方はどなたですか?」
「変な情報?」
「だから。結婚した男女はその日のうちにヤるって閣下に教えた人ですよ」
 あまりにも話が遠回りになってしまったので、イリヤも少々いらだっていた。それに一か月も職業紹介所に通っていたのもあって、つい言葉遣いが乱暴になってしまった。
「ヤるって……まぁ、そういう言い方をしていたな。あいつは……」
「そのあいつです。誰ですか? そういう変なことを言った人は」
「エーヴァルトしかいないだろう?」
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