このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 まさかここで国王の名が出るとは思っていなかった。だが、クライブとエーヴァルトの関係を考えると、あり得ない話でもないのかもしれない。つまり、エーヴァルトはクライブをからかって楽しんでいる。
「今日も、これから陛下とお会いするんですよね?」
「そうだな。オレがいないとあいつは仕事をしないからな」
 どんだけなんだ、あの国王は。と心の中で思うのは自由である。
「では、陛下にお伝えください。夫婦仲は良好であると。陛下が心配なさる必要はまったくございません」
 クライブとイリヤの関係はどうでもいいような発言をしておきながら、なぜかクライブを焚きつけているのがまったくわからない。もしかしたら冗談なのかもしれないけれど、その言葉を真に受けているクライブが、やっぱりちょっとだけかわいい。
「わかった……」
 彼があまりにも素直すぎる。そのギャップに、心が揺さぶられた。
 それを誤魔化すかのように、話題を変える。
「あの……ところで、私の部屋はどちらになりますか? 昨日はバタバタとしておりまして、気づけばこちらの部屋を案内されていたわけで……」
「ああ、そんなことか。扉続きの隣の部屋だ。あの扉の向こう側がイリヤの部屋になるが、誰か呼ぼうか?」
 つまりイリヤの着替えやらなんやらを手伝う侍女を呼ぼうかと言っているのだが。
「ええと、この状態で?」
「この状態? 何もおかしくないだろう?」
「どうして……どうして、閣下は服を着ていないのですか!」
 これではこの部屋でナニが起こったのかと、想像をかきたてられてしまう。まったくもって、ナニもないというのに。
「ああ、そんなことか……。オレは、寝るときは何も着ない」
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