このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 もしかして昨日、あの場でシャツを脱いだのは、寝るためだったのでは。いや、だがあのタイミングは悪すぎる。
「下も?」
「安心しろ。下は履いている」
 そう言って前髪をかきあげる仕草に、自然と目を奪われた。無駄に顔がいい。あの国王の宰相なのだから、ある程度見目も重要視されるのだろう。
 だけど、彼が寝台から降りようとするのは、必死で止めた。いくら下だけは履いてようが、イリヤにとっては目の毒である。
「安心できません。今日からは、きちんとシャツを着て眠ってください。それから、閣下が寝台から出るのは、私が向こうの部屋にいってからです」
 イリヤはぷんすかと怒りながら、隣の部屋に向かって歩き出す。
「……イリヤ」
 その背をクライブに呼び止められた。ここで無視をするのは大人げない。
「なんでしょう」
 振り返らずに声をかける。
「朝食は食堂で一緒にとろう。迷惑か?」
「いえ、迷惑ではありません。家族であればそれが自然なことかと。では、すぐに着替えてうかがいます」
 イリヤはすたすたと部屋に向かった。
 扉を開けて部屋に入り、閉じた扉に背を預けてずるずると座り込む。
 顔が熱い。あのギャップは卑怯だ。それに、無駄に引き締まっているあの身体。文官のくせに。
 そのまま何度か深呼吸をして、気持ちと心臓が落ち着いたところでベルを鳴らす。
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