このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 叔父は、イリヤを一人の女性として見ている。
 むしろ、イリヤを手に入れるために母親と結婚をしたといっても過言ではないほど。
 そして母親はそれを知っていた。だけど、イリヤの他にも幼い娘が三人。母親は三人の娘を守りたかったのだろう。どちらかというと、イリヤであれば自分の身は自分で守れると思ったに違いない。イリヤ自身もそう思っている。妹たちを守るのであれば、自分を犠牲にすることも厭わないつもりだ。
 だから母親を恨んでいるわけでもないし、母親の気持ちもよくわかる。
 実際にイリヤは、自分で自分の身を守っていた。その結果、あの家を出ることにした。
 いや、母親がこっそりと紹介状を手渡してくれた。
 ――サブル侯爵家では家庭教師を探しているの。あなたであれば務まると思うわ。ごめんなさい、イリヤ……。
 母親は何に対して謝っていたのだろうと、今になって思う。
 イリヤから見ても三人の妹たちはかわいいし、彼女たちにはすくすくと育ってもらいたいと願う。
 自分が犠牲になることで彼女たちの生活を守ることができるのならば、喜んで犠牲になる。
 昔からイリヤはそういう女性だった。
 紹介状をもとにサブル侯爵家を訪れると、これほどか! というほど歓迎された。
 サブル侯爵は三年前に妻を亡くし、五歳と七歳の娘と暮らしている。そしてイリヤに求められたのが、その娘たちの家庭教師であった。
 特に五歳の娘の癇癪が酷く、どんな家庭教師も長続きしないのだとか。
 同じような年齢の妹たちの世話をしていたイリヤにとって、五歳と七歳の娘の家庭教師は、ある種、天職でもあった。もちろん住み込みとのことで、イリヤには離れの一部屋が与えられた。こちらの離れでは、他の使用人たちも暮らしている。
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