このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
第三章:お仕事はきっちりとこなします
 隣で眠るイリヤを見下ろし、クライブは静かに息を吐いた。
 彼女の胸元は静かに上下しており、ぐっすりと夢の世界に入り込んでいるらしい。
 彼女と出会って一日半。出会って数時間で結婚をしたと言えば、誰もが驚くだろう。
 クライブ自身だって、まさか自分が結婚するとは思っていなかった。それもこれもすべて、国王であるエーヴァルトが原因である。つまり、国王のせい。人のせいにするものではないとクライブは常々口にしているが、今回の件だけは例外である。
 彼女は十九歳とは聞いているが、こうやって眠っている姿はもっと幼く見えた。頬にかかるマホガニーの髪が、寝息でふわふわ動いている。それをさっと手で払いのける。
 聖女召喚の儀が行われたのは、およそ一か月前。聖女は無事に召喚されたが、赤ん坊だった。そのまますくすくと成長して、聖女となってこの国を魔物から救ってくれればいいのだが、その聖女本人が問題児であった。
 誰の手にも負えない。
 書類上はクライブの娘となったが、王城で国王夫妻が引き取って育てていた。それでも乳母も手を焼くし、たまに暴走する魔法は国家魔法使いであっても二人から三人がかりでやっと。
 それなのに、イリヤは一人で聖女マリアンヌを眠りにつかせ、そのマリアンヌもすっかりとイリヤになついている。誰もできなかった偉業を、簡単にやってのけたのだ。たったそれだけのことと思えるかも知れないが、エーヴァルトやクライブからしたら偉業である。
 これならマリアンヌの成長を待ち、聖なる力で魔物を蹴散らしてもらえばよい。
 その件について、クライブの結婚がもれなくついてきたのは、やはりエーヴァルトの仕業としか思えない。彼は、魔法が使えるイリヤをこちら側に取り込もうとしている。
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