このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 一応、イリヤが眠るまでは我慢してくれたようだ。
「朝、目が覚めたら、イリヤがオレの目の前にいた」
 はっとして後ろを見ると、イリヤが眠った場所からだいぶ移動している。
「あれ? もしかして私、転がってきました?」
「そうみたいだな。だから、今のこの状態は、お互いにとって不可抗力だった。そういうことでいいだろうか?」
「あ、はい……ナニもなければ、それでよろしいかと……」
 そう口にしたものの、イリヤの頬には熱がたまった。だから、裸の男性は見慣れていないのだ。
「で、では、私。着替えて参ります」
 よろよろと寝台から下りたイリヤは、クライブが何か言う前に扉続きの自室へと向かった。
 着替が終わると、彼と共に朝食をとった。その間、マリアンヌは必死になってミルクを飲む。その姿が愛らしくて、つい手の動きが止まってしまう。クライブに注意されるが、そんな彼だってマリアンヌの様子をちらちらと見ていた。
「では、いってくる」
 王城へと向かうクライブを見送ると、イリヤは開放感に包まれた。彼がいると窮屈というわけではないのだが、変に緊張して身体が強張ってしまう。
 寝室も分けてほしいと言ったのだが、新婚の二人が別々に寝ると使用人たちに勘ぐられてしまうとのこと。そうなると、噂がどうのこうのと言い出したので「あ~、もういいです、いいです」と言って、彼と一緒に眠ることとなった。
 クライブとの結婚が契約結婚みたいであるのを知っているのはチャールズだけ。それ以外には、仲のよい夫婦関係を見せておかなければならない。
 今日も腕の中にいるマリアンヌは、絶好調である。あ~う~あ~う~と楽しそうに声をあげ、ぱっちりと大きな目を開けている。
< 69 / 216 >

この作品をシェア

pagetop