このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 クライブが帰ってきたとサマンサから連絡があったとき、ちょっとだけわくわくしながら彼を出迎えようとしていることにふと気づく。
 この感情はいったいなんなのか。
 ナナカからマリアンヌを預かり、彼女を抱くと、ずっしりとした重みを感じた。
「今日も元気ね。マリーは何をして遊んだのかな?」
「あ~だ~」
 早く一緒に歩いて散歩をしてみたいと思いながらも、その頃になれば今を懐かしく思うのだろう。
 マリアンヌを抱いたまま、クライブを迎える。
「おかえりなさいませ……え?」
「だ~だ~」
 イリヤはクライブの隣にいる男を確認する。
「ええと、陛下?」
 なぜかクライブの隣にエーヴァルトが立っている。それでも顔を隠すかのように深くフードをかぶっているのは、その正体を他の者に知られないという配慮からのようだ。
「きちゃった」
「きちゃった、じゃねぇよ」
 エーヴァルトの言葉に、クライブが顔を引きつらせながら隣で答えた。
「クライブ、冷たい。君がマリアンヌに会わせてくれないからだろぉ? あぁ、マリアンヌ、二日ぶりだね。会いたかったよ」
 エーヴァルトはフードを脱ぎ、イリヤの腕の中にいるマリアンヌに顔を近づけている。
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