このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「どんな仕事でもやるって、軽々しく言わないほうがいいわ。特にあなた、噂のイリヤ・マーベル嬢でしょ?」
「え?」
 たくさんの人たちが足を運ぶ職業紹介所にまでイリヤの名が知れ渡っているとは、思ってもいなかった。
「ほら。ここはいろんな仕事を受けるからね。あなたの噂も入ってくるのよ。そのマホガニー色の美しい髪。ラベンダー色の魅惑的な瞳。ほんと、誰もが虜になりそうな見目よね」
 人から人へと伝わる噂は、貴族の間だけでなく、本当にさまざまな人たちに伝わっていくらしい。身分や住んでいる場所など関係なく。
「紹介できるとしたら、高級娼館くらいかしらね? あなたなら、たくさんの客がつくと思うけれど?」
 窓口の女性が、イリヤの唇をつつっと右手の人差し指でなでた。同性であったとしても、それがあまりにも蠱惑的に見えて、顔が火照ってしまう。
「やぁねぇ? そんな初心(うぶ)な反応を見せて。演技も上手なのね。あなたなら間違いなくナンバーワンになれるわ。どう? ここ。紹介するわよ……って、もしかして、本当に初心?」
 顔を真っ赤にしたままイリヤは頷いた。
「やだぁ。毒婦って聞いていたのに。むしろイリヤ・マーベルが仕事を探しにきたら、ここを紹介しろって言われていたのに。無理無理無理無理。この娼館、処女は雇わないから」
 あっけなく撃沈。いや、撃沈してよかったのだが。
「ところで、あなた。何をしたの? こんな噂が広がるなんて、よっぽどのことよ?」
 窓口の女性は、まるで姉のようにイリヤの話を親身になって聞いてくれた。
「なるほど。運が悪かったというか、相手が悪かったというか……。美人って得なようにも見えて、不憫なのね。お金はあるの?」
「……はい。前のお仕事でいただいていた分は」
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