このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 気になるか気にならないかで言ったら、もちろん気になる。何しろ、自分の母親が夫と内緒話をしていたのだ。絶対にイリヤの昔の話とか、そういったことを伝えているにちがいない。
「そりゃあ、気になりますよ」
「ま、簡単に言えば。魔法について聞いていただけだ。何もイリヤが心配するような話はしていない。子どもの頃に木に登っておりられなくなって、大泣きした話とかな」
「……って、そういう話を人のいないところでしないでください!」
 真っ赤になったイリヤは、ふんと顔を背けた。
「ん、ぎゃぁ~」
 突然、マリアンヌが泣き出した。クライブの腕の中にいた彼女だが、目をつむりながら手をバタバタと動かし、その手はクライブの眼鏡を見事につかむ。
「あっ」
 また彼の眼鏡は吹っ飛んだ。慌ててイリヤが眼鏡を拾って手渡そうとしたが、彼の腕の中にはマリアンヌがいる。
「とりあえず、私のほうでおかけしますね。あ、でも、眼鏡がなくても見えるんでしたっけ? お預かりしていたほうがよろしいでしょうか?」
「いや、かけてくれ」
「だけど、またマリアンヌが」
「むしろマリアンヌをまかせたい。ここまで泣かれると、オレではだめだろう」
 暴れるマリアンヌの身体を落とさないようにと、なんとか抱いているクライブであるが、彼の言うとおり、この状態のマリアンヌを彼が宥められるとは思えない。
< 83 / 216 >

この作品をシェア

pagetop