このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「そうなりますと、マリアンヌだけのけ者……」
「にするわけがないだろう? 君たちが。君たちであれば実子もマリアンヌも、同じように愛してくれる。そう思ったから君たちに預けたのだ」
 うんうんと頷きながら、エーヴァルトは良いことを口にしたと自画自賛しているが「結婚する気がないなら子どもだけでもどうだ?」と彼が言い出したからマリアンヌを養女にしたはずだったと記憶している。それなのにエーヴァルトは勝手に美談にしようとしている。
「とにかく私は。結婚のけの字すら追い払うような男だった君が、なんだかんだとイリヤ嬢とうまくやっているのが、嬉しいのだよ。君にも私のようにね、幸せな結婚生活を送ってもらいたい」
 余計なお世話だ、と心の中で叫ぶクライブであるが、エーヴァルトに向かってその言葉を吐かないのは、自分自身もそれを頭の片隅のどこかで願っているからなのかもしれない。
 まずは、イリヤとの心をわかり合うのが先なのだが、これをどうしたらいいのかもさっぱりわからない。
 誰かに相談をと思っても、相談相手は目の前の彼しか思い浮かばないのも、頭が痛い問題である。

 *~*~*

 少しだけ肌寒い朝には、ぬくぬくとする寝台の中は心地よい。いつまでもこれにくるまって微睡んでいたいと、そう願ってしまうくらいに。
「おはよう」
「……ひぃっ」
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