このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 何度目になるかわからない朝、目が覚めて最初にクライブの顔が視界に入るのは、心臓に悪い。しかも彼は、イリヤが何度お願いしても寝るときに服を着ない。
 今日もあたたかいなぁと思っていたのは、毛布が作り出すぬくもりではなかった。
「人の顔を見た途端、それは失礼ではないのか? むしろ寝ぼけているのか?」
 クライブの指がむにっとイリヤの頬をつねった。
「おひてまふ!」
 ペシッと頬をつねる彼の手を叩く。
「いつも言ってるじゃないですか。寝るときは服を着てください。これから寒くなるのに……そう、風邪、風邪をひきます!」
「心配してくれているのか?」
 イリヤはこくこくと小刻みに頷く。
「だが、心配するな。オレは今まで風邪を引いたことがない」
「あぁ、馬鹿は風邪引かないと言いますもんね」
「体調管理ができていると言ってほしい」
 イリヤはクライブの胸元を手で押しのけようとするが、彼の腕ががっしりとイリヤの背に回っているためびくともしない。
「閣下。この手を放してください。なんでこんなにくっついてるんですか!」
「それはイリヤがくっついてきたからだろう? 寒いのかと思ってこちらの毛布に入れてやったんだが?」
 ――またやってしまった。
 こういったやりとりを繰り返すたびに反省をするのだが、イリヤは寝相が悪かったらしい。
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