身代わり少女は、闇夜の帝王の愛に溺れる。
明らかに話をはぐらかそうとしている。



今更隠し通そうとしたって、無意味なのに。



「とぼけても無駄ですよ。一葉さん、2週間前にお見合いした人との婚約が決まったんでしょ?」



「待って、日和。それは……」



「こっちはもうとっくに知ってるんです。ていうか、お見合いしてることも、婚約してることも、ちゃんと私に教えて欲しかったです。そしたら……、私……」



――こんな身分不相応な恋に溺れてしまうのを防げたかもしれないのに。



「日和……」



「さよなら、一葉さん」



「日和……っ!」



これ以上一葉さんと一緒にいると泣いてしまいそうで、呼び止めようとする彼に背を向けて、私はそのままがむしゃらに走り出した。



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