身代わり少女は、闇夜の帝王の愛に溺れる。
危険を察知したとたんに、ドクッと心臓が大きく跳ね上がった直後。



眼鏡男子の手が、こちらに向かってぬっと伸びてきて――気付けばあっという間に、私は彼の指に顎先をつままれていた。



「な、なに……?」



「…………」



おそるおそる声をかけてみるものの、眼鏡男子からの返事はない。



レンズの奥の目を()らしながら、私の顔をじろじろ見つめている。



眼鏡男子が何をしたいのかわからないけど、今のうちに彼の手を払うなり、体を突き飛ばすなりした方がいいとわかっている。



なのに……頭の中が警報を鳴らすのに反して、全身が凍り付いたみたいに硬直してしまって、思ったように体を動かせない。



このままだと、無理やりキスに持ち込まれるかも……。



出会ったばかりの好きでもなんでもない眼鏡男子にされるがまま、指で顎をクイッと持ち上げられたちょうどその時。


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