身代わり少女は、闇夜の帝王の愛に溺れる。
「きみ、名前は?」



声をかけられて、ハッと我に返る。



不覚にも、私は知らず知らずのうちに彼に魅入られてしまったらしい。



「え……?」



「名前。教えてくれなきゃ、これから君のことを何て呼べばいいかわからないでしょ?」



「それはまあ、そうですけど……」



人に名前を聞くのなら、先に自分から名乗るべきなんじゃないの?



なんて言いたかったけど、今は私よりも年上っぽいこの人に口答えしない方が良さそうだ。



それに……腕組みをした棗が、何故か私に『早よ言え』と目で急かしてくるし。



とりあえず、ここはさっさと自己紹介しておいた方が良さそうだ。



「……桜坂(おうさか)日和っていいます」



「へえ……きみ、日和っていうんだ。かわいい名前だね」



タラシかよ。



ぱっと見チャラい印象のある人ではないけれど、案外女子の扱いに手慣れているのかもしれない。



とりあえず、彼に用心するに越したことはなさそうだ。



「じゃあ、あなたの名前は?」



私はこの美青年に警戒しつつも、身構えながらたずねた。



「名乗ったんだから、教えてください」



「まあまあ。そんなに喧嘩腰にならなくても」



美青年はおかしいことでもあったかのようにクスッと笑うと、私の顔をじっと見つめて口を開く。



天城(あまぎ)一葉、覚えておいて」



えっ…………?



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