青山のことなんて好きじゃなかった
青山(アオヤマ)のことなんて何とも思ってなかった。
オレは中務(ナカツカサ)が好きだったし、青山は中務と一緒に帰ってる女子だから、中務に話しかけたときについでで顔を見ることはあったけど、別に、可愛いとも思わないし、好みじゃなかったし。オレは中務のほうが可愛いと思ってたし。
だから、あの日、バレンタインデーは……正直、悲しかった。
中務に廊下まで呼ばれたときは、チョコレートをもらえるんだと思って、すごく嬉しかったのに。廊下へ行くと、チョコレートを用意していたのは青山のほうだった。
あからさまに嫌な顔をしたことは悪かったと思ってる。受け取っても「ありがとう」を言わなかったから、そのことは後になって反省もした。
でも、オレが好きなのは中務だし。中務からはチョコレートもなくて、というか、中務は青山を応援してるっぽいから、それがショックだった。
それからの1ヵ月、オレはこれまでのように中務をからかいに行くこともできなかった。中務の隣にはいつも青山がいるし、青山の前で中務に話しかけるのは無神経だと思うから。
オレはオレで傷ついてんだよ。オレは中務から何とも思われていないのだとわかってしまったのだから。
だけど、オレなりにお返しのプレゼントは用意したんだ。買ったのは母さんだけど。ハンカチとクッキーが入ってる箱を、わざわざ渡しに行ったのに。
「いらない」
青山は嫌がってた。嫌がって、オレから離れ、窓際のカーテンの向こうで隠れていた。
クラスのみんなが、オレと青山のことを見てた。
「代わりに渡しておくね」と言って、中務が箱を受け取ったけど、結局、あの箱はどうなったのかな。
オレはムカついていた。
青山はオレが好きなんじゃないの?
オレが好きだった中務は、青山のことを応援してるんだろ?
「なんでオレがフラれたみたいになってんの?」って腹が立ったし、みんなから見られて本当に恥ずかしかった。
それから半月が経ったけど、青山からは何もなかった。教室ですれ違うときも、目だって合わなかった。
「チョコのとき、ショックだったみたい」
終業式の日、青山を見ていたオレに気づいてか、突然、中務がそう言ってきた。
何だそれ。
ショックだったのは、俺のほうだし。オレは中務を好きだったんだから、ああいう態度になってしまうのは仕方がないことじゃんか。
すげえ腹が立つ。
でも……。
中2になったら、クラスが離れるかもしれないし、そうなったら……もう顔を見ることも難しくなるかもしれないから。
──手には、中務が書いた青山んちまでの地図。
青山家の表札をじっくり見つめた後、オレは勇気を出してインターホンを押した。
ひとこと文句を言わなきゃ気が済まないんだ。オマエなんて大っ嫌いだ、と言ってやる。
でも、また傷つけてしまうかもしれない。だから、それを言うのは……今日にしたかった。
4月1日。
この日なら、その言葉もきっとウソってことにできるから。
……嫌いだけど、青山なんて。
自分勝手で腹が立つし、大嫌いなのも本当だけど。
でも、これで終わるのはもっと嫌だ……。
【完】
オレは中務(ナカツカサ)が好きだったし、青山は中務と一緒に帰ってる女子だから、中務に話しかけたときについでで顔を見ることはあったけど、別に、可愛いとも思わないし、好みじゃなかったし。オレは中務のほうが可愛いと思ってたし。
だから、あの日、バレンタインデーは……正直、悲しかった。
中務に廊下まで呼ばれたときは、チョコレートをもらえるんだと思って、すごく嬉しかったのに。廊下へ行くと、チョコレートを用意していたのは青山のほうだった。
あからさまに嫌な顔をしたことは悪かったと思ってる。受け取っても「ありがとう」を言わなかったから、そのことは後になって反省もした。
でも、オレが好きなのは中務だし。中務からはチョコレートもなくて、というか、中務は青山を応援してるっぽいから、それがショックだった。
それからの1ヵ月、オレはこれまでのように中務をからかいに行くこともできなかった。中務の隣にはいつも青山がいるし、青山の前で中務に話しかけるのは無神経だと思うから。
オレはオレで傷ついてんだよ。オレは中務から何とも思われていないのだとわかってしまったのだから。
だけど、オレなりにお返しのプレゼントは用意したんだ。買ったのは母さんだけど。ハンカチとクッキーが入ってる箱を、わざわざ渡しに行ったのに。
「いらない」
青山は嫌がってた。嫌がって、オレから離れ、窓際のカーテンの向こうで隠れていた。
クラスのみんなが、オレと青山のことを見てた。
「代わりに渡しておくね」と言って、中務が箱を受け取ったけど、結局、あの箱はどうなったのかな。
オレはムカついていた。
青山はオレが好きなんじゃないの?
オレが好きだった中務は、青山のことを応援してるんだろ?
「なんでオレがフラれたみたいになってんの?」って腹が立ったし、みんなから見られて本当に恥ずかしかった。
それから半月が経ったけど、青山からは何もなかった。教室ですれ違うときも、目だって合わなかった。
「チョコのとき、ショックだったみたい」
終業式の日、青山を見ていたオレに気づいてか、突然、中務がそう言ってきた。
何だそれ。
ショックだったのは、俺のほうだし。オレは中務を好きだったんだから、ああいう態度になってしまうのは仕方がないことじゃんか。
すげえ腹が立つ。
でも……。
中2になったら、クラスが離れるかもしれないし、そうなったら……もう顔を見ることも難しくなるかもしれないから。
──手には、中務が書いた青山んちまでの地図。
青山家の表札をじっくり見つめた後、オレは勇気を出してインターホンを押した。
ひとこと文句を言わなきゃ気が済まないんだ。オマエなんて大っ嫌いだ、と言ってやる。
でも、また傷つけてしまうかもしれない。だから、それを言うのは……今日にしたかった。
4月1日。
この日なら、その言葉もきっとウソってことにできるから。
……嫌いだけど、青山なんて。
自分勝手で腹が立つし、大嫌いなのも本当だけど。
でも、これで終わるのはもっと嫌だ……。
【完】