婚約者に捨てられた夜、八歳年下の幼馴染みにプロポーズされました。
 そして翌朝、役所が開くと同時に婚姻届を提出した。
 昨日健人と会えなかったら、私は絶望して会社をやめて引きこもりになっていたかもしれない。
 どうしてすぐ隣にこんないい男がいるのに、わからなかったんだろう。馬鹿だな、私。

 役所を出て、相思相愛の恋人同士みたいに手を繋いで歩く。
 昨日までただの幼馴染みだったのに。いや、婚姻届を出したからもう夫婦だけど、だけどまだ頭はそうかんたんについてこない。

 健人は、まるで宝探しでもしているかのような顔で不動産屋の窓に張り出された新着物件リストを眺める。

「卒業式が終わったら、四年くらい二人で生活したいな」
「…………四年?」

 何が言いたいのか、察した。

「いつかは親になりたいけど、数年はミオと二人きりでいちゃいちゃしたい」
「健人、いつからこんな破廉恥なこという子になっちゃったの。私の知るあなたは控えめな子だったんだけど」
「あえて言わないだけで、ずっと思ってたよ? ミオにキスしたいなあとか、触りたいなあとか」

 高校では女の子がバレンタインチョコを持ってくることもあったのに、全部断っていたらしい。好きな人以外のは受け取らないと言って。高瀬のおばさんから聞いた。あ、今日からはお義母さんか。
 嬉しいと恥ずかしいが同居している。
 顔が熱くて、握られた手が汗ばむ。

「ミオ。明日から仕事復帰だったね。大丈夫? あいつと同じ職場……」
「同じ部署だけど、大丈夫。健人のおかげで私、あいつに会っても落ち込まずにいられる」

 こんなにも私を想ってくれる旦那様がいるのだから、私を捨てた男のことなんて、どうでもいい。
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