婚約者に捨てられた夜、八歳年下の幼馴染みにプロポーズされました。
 部署に入って、まずみんなに休んだことを謝罪して回る。
 みんなから向けられる眼差しは……心配? 体調不良への心配ではないような。

「お休みを頂いてすみませんでした」
「佐藤さん、大丈夫なの? あいつらの顔見るの辛いんじゃ」

 まるで婚約破棄された一部始終を知っているかのような言い方だ。

「……ええと、状況説明をお願いできますか」

 飯名(いいな)先輩いわく。
 私が休んだのをいいことに、一馬と横戸は部署に入るなり「佐藤と婚約破棄して本当に愛する人と結婚しまーす(はあと)、リンちゃんは寿退社しますぅ」宣言をかましたらしい。
 二人の頭には、花畑の中で結婚式でも上げるハッピーエンドな光景が展開されていたのかしら。

 みんなから祝福してもらえると本気で思っていたんだとしたらおめでたすぎる。

 私と結婚する準備を進めていたのは部署のみんなが知っている。
 だから当然、部署の人間は「こいつら何言ってんだ?」という反応。
 一馬と横戸は社会人であるまえに人としてありえん! と部長に説教を食らったらしい。

 結婚式場の予約をまだしていなかったのが救いよ。
 キャンセル料って高いから。
 一馬は自分の席で青い顔で小さくなっている。ちらちらこっちを見るな元婚約者。
 一馬の隣の席……リンがいないのは、寿退社ではなさそうだ。
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