婚約者に捨てられた夜、八歳年下の幼馴染みにプロポーズされました。
「佐藤さん、辛いならもう少し休んでいていいのよ」
「大丈夫です。遅れを取り戻さないといけませんから」

 自分の席についてパソコンを立ち上げると、一馬がやってきた。
 あんなこと言っといて、よく話しかけてこられるなぁ……。

「な、なあ、美緒。リンちゃんとは別れるから……その、やりなおしてくれないか」

「業務以外で話しかけないでいただけますか、氷堂さん。それに、名前で呼ばれるような関係ではないので呼び捨てはやめていただけませんか」

「頼むよ美緒。ちょっと飲み会のあとホテルに誘われて……わかるだろ。男なら酔った勢いでやっちまうことくらいあるって。な? 美緒に許してもらえないと……このままじゃ左遷されちまうんだ」

「知らんわ。どこへでも飛んでいけボケナス」

 酔った勢いでいたしただけだから許せって、一昨日とだいぶ違うことを言っているな。
 俺にはリンちゃんしかいないしリンちゃんにも俺しかいない! だろ。
 仮に酔った勢いが本当だとして、酔うたびに他の女とホテルに入る男と結婚できる女が、この世にいるだろうか。

 パソコンから目を離さず一馬……いや、氷堂に返答すると、そこかしこから忍び笑いが聞こえてきた。
 
 氷堂は顔をひきつらせたまま自分の席に戻っていった。

< 12 / 17 >

この作品をシェア

pagetop