婚約者に捨てられた夜、八歳年下の幼馴染みにプロポーズされました。
「どうすれば、ミオ姉は消えずにいられる?」
「え……」
「消えないでよ。大人になったらミオ姉にしてもらったこと、たくさん返したいって思っていたのに」

 低い声で囁かれて、体が震えた。
 たぶん私は捨てられてヤケクソになっていた。

「なら、私と結婚して。それで返して。できないでしょう。入籍直前で捨てられるような女だもん」

 普通なら振られてヤケクソになった馬鹿の戯言なんて聞き流すし、人生損風に棒に振るなと叱るんだろう。
 でも健人は私の目を見て笑う。

「うん。僕、もう十八才だから、結婚できるよ。結婚しよう、ミオ姉」

 何を言われたのか理解するのに、だいぶ時間がかかった。
 さっき自分が吐いたセリフも思い返して、自分の愚かさに絶望する。
 いくらショックだったからって、いたいけな高校生相手に、私は何を言っているんだ。

「……け、健人。だめだよ、私、いまの撤回するか……」

 言い終える前に、健人の唇が私の口を塞いだ。
 ソファに倒れ込んで、背中を縫い止められる。
 触れるだけみたいなかわいいものでなく、息ができない、熱いもの。
 なにも考えられなくて、全部健人に持っていかれてしまう。

「僕は、十年前からずっと、こうしたかった。なのに、今更なしなんて、言わないで」
「健、人」

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