婚約者に捨てられた夜、八歳年下の幼馴染みにプロポーズされました。
 健人が八歳のとき、花で指輪を作ってくれたことがあった。
 大人になったら結婚して、なんて。
 こどものいうことだし、それを見ていた双方の両親も「小さい頃の初恋はかわいいもんだなあ」なんて笑っていた。

 私達が気づいてないだけで、健人はあの頃から本気だったんだ。

「ミオ姉が去年ゴールデンウィークに帰ってきたとき、婚約者を連れてきたよね。父さんたちは祝福していたけど、僕はずっと、別れてしまえばいいって思っていたよ。あんなやつにミオ姉を幸せにできるわけないって思った。だってアイツ、ちゃんとミオ姉のこと見てないんだもん。でも、みんな祝福ムードの中でそんなこと言えなくて」

 笑顔の中に、暗い光が混じっている。

 健人にこんなにも熱い、強い気持ちを向けられて、胸の奥が疼いた。
 振られてすぐ他の男に走るなんて、ただ傷を埋めたいだけにしか見えない、健人の好意を利用しているだけの不義理だと思う。
 私を捨てたバカに、「あんたなんかいなくても幸せ、こんなに想ってくれる人がいる」って言ってやりたい復讐心もどこかにあった。

 手を伸ばして、健人の口づけに答えた。
 健人はもう、幼い子ではない。
 自分の足で歩く立派な男性だ。繋がれた手は大きくて、私の手を簡単に覆ってしまう。

「ミオ姉と結婚できるなんて、最高のプレゼントだ」
「私にそんなこと言うの、健人くらいよ」

 健人が心から幸せそうに笑う。
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