婚約者に捨てられた夜、八歳年下の幼馴染みにプロポーズされました。
健人がこれだけはっきり好意を伝えてくれているのに、曖昧な言葉で返すわけにはいかない。
ちらりと隣に座る健人を見上げると、期待に満ち満ちた目で私を見ている。
何この可愛い生き物。
視線の熱さでとけてしまいそう。
出会ってから今日まで、思い返せば健人はまっすぐ私に向かってぶつかってきていた。
さっきの熱い口づけを思い出し、抱きしめられたときの安心感を思い出す。
ここで断れば、普通に挨拶を交わすだけのご近所さんになってしまう。
そんなのは無理だ。
もう、ただの幼馴染みに戻れそうもない。
「…………うん。未練なんてない。健人の手を取るよ」
「ミオ姉。もっとこう、愛してる! 好き! って言葉ないかな」
ちょっと残念そうに口をとがらせる。
こちとら今日振られたばかりだよ。そんないきなり新カレ大好きなんてできるわけないじゃない。
健人のご両親、じつはとっくに健人の気持ちに気づいていたらしい。
私の婚約が決まったときの健人の落ち込みぷりは、一週間寝込むレベルだったとか。
そんな長年の想いに気づかなくてごめん。
双方の親から幸せになれと言ってもらえて、私たちは婚姻届を出すことなった。
話し合いが終わり、私の部屋で二人で話をする。
昔はこのテーブルにノートを広げて健人の勉強を見てあげていたのに、今となりに座っている健人は明日から旦那様だ。
なんだか変な気持ち。
「健人、高三だよね。今日は家にいたけれど、学校行かなくて大丈夫なの?」
「あとは来週、卒業式に出れば終わりだよ。就職先は決まっているし」
「就職組なんだ。これから夫婦になろうというのに、それすらも知らなかった」
「これから知っていけばいいじゃない」