婚約者に捨てられた夜、八歳年下の幼馴染みにプロポーズされました。
 そっと手を握られる。

「キスしていい?」
「なんでそういうこと聞くの」
「もう子どもじゃないって、わからせたい。結婚だってできるし、その先も」

 長い指が私の顎をとらえて、唇を奪う。
 元婚約者とも口づけくらいしたことはあるのに、あんなお遊びとは比べ物にならない。

「僕、もう十八だからわかるよ。隣に住んでいる赤の他人の面倒をみるなんて、そんなの嫌がる人ばかりだ。世の中の人って思うより冷たい。なのにミオ姉はいつだって笑顔で僕のご飯を作って一緒に食べて、勉強を見てれて…………本当に大好きなんだ。一番最初に触れたのがあいつだっての、なんかヤダな」
「健人」

 なんども口づけの雨が降ってくる。

「僕、仕事頑張って、初任給で指輪買うから。それまでは、これで」

 健人は私の左手を取って、薬指に口づける。

「昼間みたいにあやふやにされたくないから、ちゃんと言うよ。ミオ姉……ミオ。僕の妻になって」
「……うん。ありがとう、健人。私の夫になって」

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