王子様のお世話役を仰せつかっておりますが。〜おせっかい令嬢は、隣国王子に執着される〜
 (私の味覚、凄く信用されてるな……)

 そういえば十年前のお茶会では、自分が美味しいと思ったものを片っ端からクルトに分け与えていた記憶がある。
 無礼極まりない行為だが、あの頃クルトもリセと同じものを食べて美味しいと思ってくれていたのだろうか。それを思うと胸がほんのり温かくなる。
 
「なるほど、クセがある」

 席に着き食事を始めたクルトは、リセと目を合わせると少し笑みを作った。

「旨いな」
「……良かったです、お口に合って」

 見た目には分かりにくいが……クルトは実に楽しそうだった。
 トレーを持って並ぶことも、このような場所での食事も、きっと初めてだったに違いない。リセには、彼がこの学園生活を楽しもうと、馴染もうと……歩み寄っているように見えた。

 十年という年月で、あの素直だったクルトは変わってしまったと思い込んでいたリセ。
 しかし、変わってしまっていてもクルトはクルト。楽しそうなクルトを見るのは良いものだ。リセも自然と顔がほころぶ。

「やっと笑ったな」
「……クルト様、実はシチューもお勧めなんです。肉がホロホロと柔らかくて」
「旨そうだな」
「たまに登場するチーズたっぷりのサラダも美味しくて」
「それも旨そうだ」

 リセはクルト相手に自然と喋りだした。彼はリセの話に相づちを打ち、たまに目を合わせて軽く笑う。


 十年前のあの頃とは違い、クルトの声は低く、笑顔は薄く。
 それでも、二人はまるで昔に戻ったかのような時を過ごしたのだった。
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