王子様のお世話役を仰せつかっておりますが。〜おせっかい令嬢は、隣国王子に執着される〜

 地面から砂煙が立ちのぼる。

 男子生徒の足元へと、鋭いスマッシュが決まった。
 あまりの威力に、青い顔で固まる男子生徒。女子生徒の悲鳴。対して、涼し気な顔でラケットを振り下ろしたクルト。

 予想とは大きく異なる事態に、リセは冷や汗が止まらなかった。
 


 昼休憩、二人はテニスコートへと向かい、友好的な生徒達の輪へ混ぜてもらったのだが。
 クルトがラケットを持った途端、あっという間にテニスの勝負は決まってしまったのだった。

「ク……クルト様、魔法を使ってはいけません」
「魔法など使ってはいないが」
「もう少し、ラリーなどを楽しんでみては……」

 そう、リセが想像していたテニスとは、もっと和やかなものだった。
 何回ラリーが続くか挑戦し、球が逸れたらごめんごめんと謝りながら拾いに行く……そのような。少なくとも、地面に突き刺さるようなスマッシュを決めるテニスは、想像してはいなかった。

「皆、楽しかった。礼を言う」

 クルトは静まり返ったテニスコートに向かって声をかけると、その場を後にする。
「し、失礼いたします」
 リセも生徒達に深く頭を下げたあと、急いでクルトの後を追った。
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