王子様のお世話役を仰せつかっておりますが。〜おせっかい令嬢は、隣国王子に執着される〜
「クルト様は、さすがですね」
「何がだ」
「あっという間に、皆の心を掴んでしまいました」

 帰りの馬車の中で、リセはぽつりと呟いた。

 テニスとバイオリンのおかげで、彼は難なく学園へと溶け込んだ。
 線引きはされているが、すれ違えば挨拶をされるまでには親しみを持たれ始めている。
 さすが王族、というところだろうか。きっと人心掌握術を心得ているに違いない。

「特に、あの握手の効果は素晴らしいです……」

 正直なところ、とても驚いている。王子である彼が、たやすく礼を口にし、握手をする事に。



「俺はリセの真似をしているだけだが」
「……え?」

 リセは不意打ちを食らった。
 訳が分からない。リセがいつ、この人たらしのような真似をしたというのか。声も出せず、じっとクルトを見上げたまま言葉を待った。

「リセは、楽しいといつも礼を言った。そして礼を言う時は必ず手を握った。これがエスメラルダ流の感謝の伝え方だと」
「わ、私……そんなこと、しました?」
「していた」

一生懸命、おぼろげな記憶を辿る。
思い出すだけで恥ずかしい十年前の姿が脳裏に映し出される……確かにやってしまっていたのかもしれない。

 当時、クルトはまだエスメラルダの言葉に慣れていなかった。
 それゆえ、七歳のリセは子供なりに考えた。言葉がよく分からなくても伝わるように、オーバー過ぎるくらいのコミュニケーションをとればいいと。実はエスメラルダ流でも何でも無い、リセ流だ。

 それは大成功だった。クルトにはちゃんと伝わっていたようだ。ただし、このような事態になるとは想定外だったのだが。

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