王子様のお世話役を仰せつかっておりますが。〜おせっかい令嬢は、隣国王子に執着される〜
「ああ、あの子! よろけたフリして殿下に抱きついたよ」
「すごいわ……積極的ね」

 もしあのお茶会で、リセがクルトをもっと自由にしていたら。リセがクルトの隣を陣取ったりしなければ。

 彼には違う令嬢が『世話役』として立っていたかもしれない。今、彼の周りに集う彼女達のような、美しいご令嬢が。
 そしてそのご令嬢なら、エスメラルダ王家からの『期待』にも応えられるかもしれない。

 そう思って、クルトに他生徒との交流を勧めたはずだった。なのに、このモヤモヤとした気持ちはなんだろう。

「リセも積極的になればいいのに」
「私が?」
「リセには、もうクルト殿下以外の選択肢が無いじゃない」

 皆おかしい。エスメラルダ王家も、父も、セリオンも。なぜそんなことが言えるのか。



「私がクルト殿下と釣り合うはずが無いでしょ」

 リセ自身、その言葉にした事は初めてだった。やっと口にすることができた。一番の不安を。

 だって、クルトもエスメラルダ王家も、さも当たり前のようにリセの居場所を用意するから。クルトの隣に居ていいと。

「リセってば、本っ当に失礼な奴だね」
「な、なんで」
「クルト殿下はこんなに態度に出しているのに、『釣り合わない』の一言で済ますなんて」
「え?」
「ほら、俺のことずっと睨んでる」

 セリオンが笑いを堪えながら言うものだから、リセは思わずクルトを見た。依然として女子達に囲まれたまま、やっぱり睨んでいるようには見えない。
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