王子様のお世話役を仰せつかっておりますが。〜おせっかい令嬢は、隣国王子に執着される〜
「……セリオンの気のせいじゃない?」
「何言ってるの。殿下はずっとこちらを気にしているよ」
「ずっと、あの娘達にテニスを教えているじゃない」
「俺は分かるの。リセは鈍いね」

 鈍いと言われてしまった。つくづく酷い言われ様である。だって、どこからどう見ても普通のクルトで……

「鈍過ぎるリセ。分かり易くしてあげようか」
「どうするの?」
「こうする」

 そう言ってセリオンはニヤリと笑い……

 大袈裟にリセの手を取った。





 その瞬間。

 リセのスカートは勢いよく翻り、セリオンの髪が派手になびく。
 それはリセとセリオンの間を突き抜けた、鋭い風によって。



 制服が切り裂かれるのではないのかと思うほどの風だった。思わず、リセとセリオンの手も離される。

「……ほらね。クルト殿下を見てごらん」

 セリオンは、怖々と手を仕舞う。
 あまりの勢いに固まっていたリセは、ゆっくりとクルトに目を向けた。

 先程まで女子達にテニスを教えていたはずのクルトが、鋭い目でこちらを睨んでいるではないか。
 では、もしかしなくとも……今の突風はクルトが。

「手を握るだけでここまでされるとはね。リセに近づこうなんて無謀な男は今後も現れないだろうね」
「そ、そんなの困る。私どうすれば」
「だから、クルト殿下を選ぶしかないんじゃない」

 じゃあリセ頑張って。と、セリオンは逃げるように去って行く。なんて男なのだろう。この状態でリセ一人取り残すとは。
 困ってしまった。鋭い目をしたクルトが、一歩一歩こちらに近づいてくる。

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