王子様のお世話役を仰せつかっておりますが。〜おせっかい令嬢は、隣国王子に執着される〜
「リセ」

 そんな怖い顔はやめて欲しい。セリオンとはただ手を握っただけなのに。

「あいつは誰だ」
「セリオンと申しまして……私の幼なじみなのです」
「手を握るほどの仲なのか」
「いえ、本当にただの幼なじみでして」
「リセはただの幼なじみと手を握るのか」

 これは、嫉妬……されているのだろうか。しかしなぜこんなにも問い詰められなければならないのだろう。

 クルトも男女問わず皆と手を握っている。ついさきほどまで女子達に囲まれて黄色い歓声を受けて、挙句抱きつかれていたじゃないか……

「クルト様だって……」



 そこまで思考が及んで、気が付いた。
 リセだって、あからさまに嫉妬していることに。

 セリオンには「釣り合うはずが無い」と言っておきながら。
 自分では力不足だと自覚していて、ほかのご令嬢の方がクルトにはお似合いだと……交流を勧めたのは他でもない自分なのに。

 自分の気持ちさえも、リセを取り残したまま先へ行ってしまう。目の前でこちらを見下ろす、この人に。

「リセ?」

 突如として言葉を無くしたリセを案じてか、クルトは彼女の顔を覗き込んだ。
 目の前に現れたクルトの顔に、我を取り戻したリセは後ずさる。
 だめだ、こんなに近くにいられたら――



「し、失礼いたしました!」

 世話役のはずのリセは、走って逃げた。
 呆然とするクルトと、自分の気持ちを置き去りにして、その場から必死で立ち去った。


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