王子様のお世話役を仰せつかっておりますが。〜おせっかい令嬢は、隣国王子に執着される〜
リセの身体が、ふわりと浮いた。
「え……?」
セリオンの腕をするりとすり抜け、ふわふわと浮かび上がったまま……リセの身体はゆっくりとテニスコートへと漂い始めた。
セリオンは面白そうにリセを見上げ、シルエラ達は目を丸くして呆けている。
そして空中を漂うリセの身体はクルトの腕の中へ吸い込まれるように、すっぽりと収まった。
「……クルト様」
「リセ、行こう」
これは一体、何事だろうか。
誰も、何も、声を掛けることが出来ない。彼の腕の中にいる、リセさえも。
放心状態のリセを抱えたまま、クルトは悠然とテニスコートを後にした。
リセを抱えたまま、クルトは歩き続ける。
すれ違う皆が二人を振り返り、言葉を失う。
これはどこへ向かっているというのか。
「……クルト様、重いでしょう」
「重くない」
「お、怒ってます?」
「怒っていない」
……嘘だ。どう見ても怒っている。
肩を抱かれたリセと、リセの肩を抱いたセリオンに。目も合わさず歩き続けるクルト自身が、彼の怒りを物語っている。
でも。
リセを抱えるやさしい腕。
これほどまでの嫉妬。
そして何より……シルエラ達に「リセが良い」と言ってくれた。
自然と胸が熱くなってしまうのは、やはり失礼に当たるのだろうか────