王子様のお世話役を仰せつかっておりますが。〜おせっかい令嬢は、隣国王子に執着される〜
「あれはお前だったのか」
「そうです。お陰様で彼女とは無事婚約できまして」
「それは良かったな」

 セリオンの動機を聞いて、やっとクルトの表情が柔らかいものになった。
 和やかになった空気に安心したリセは、束の間、忘れていた。
 セリオンがとんでもない人間だったということを──



「殿下とリセのご婚約はいつ頃でしょう?」

 再び、食堂に緊張が走った。

 セリオンの声は図ったように大きくて。リセは思わず、あたりを見回した。周りの生徒達は皆、こちらから視線を外してはいるが……きっと聞き耳を立てているに決まっている。

「セリオン! 何を言ってるの」
「早くしませんと、リセも年頃ですから誰かに奪われてしまうかも」
「セリオン、黙って!」

 リセが制すも、セリオンには黙る気配が無い。こんな雑然とした場所で、クルト相手になんて失礼なことを。
 青くなったり赤くなったりと忙しいリセをよそに、クルトはフッと微笑んだ。



「分かっている」

 肯定とも取れるクルトの言葉は、きっと皆の耳に吸い込まれていったに違いない。それはリセの耳にも。

 面白そうに笑うセリオンと、クルトの意味深な眼差し。
 リセは大好きなグラタンの存在も忘れて、ただただ言葉を失った。
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