王子様のお世話役を仰せつかっておりますが。〜おせっかい令嬢は、隣国王子に執着される〜
「リセ、それは違うよ」

 思い悩んでいるところを、セリオンからきっぱりと一蹴されて。リセは思わず彼を見上げた。

「リセの婚約は、リセのものだよ」
「私のもの……?」
「リセはリセのために、クルト殿下と幸せな婚約をすればいいじゃない」

 無責任に放り投げられたセリオンの言葉は、思いがけずリセの胸へと染み込んでゆく。

 この婚約が自分のためだなんて、思いもしなかった。クルトみたいな地位のある人と幸せな婚約だなんて、考えたことがなかった。

 リセは気付いてしまった。
 婚約について心が晴れない、その理由を……





「セリオンと何を話していた?」

 帰りの馬車が、がたごとと揺れる。
 目の前で足を組むクルトはいつも通り何も喋らず、時々「寒くないか」とリセを気遣うだけだったのだが。

 不意に、彼から声を掛けられた。昼間、セリオンとテニスを眺めていた時のことだろうか。

「見ていらっしゃったのですね」
「……リセの様子が変だった」
「そんなことは」

 向かい合うクルトが、真っ直ぐにリセを見る。彼の瞳は、誤魔化そうとするリセのことなど見透かすようで。じっと待っている、リセの言葉を。

「……別に、何でもないのです」

 やっと出てきたリセの言葉に、クルトはフッと微笑んだ。なぜ笑うのだろう。今、笑われるようなことは────

「リセは、昔から嘘が下手だ」
「う、嘘なんて」
「リセが『何でもない』と言う時は、何かある時だ」

 リセは誤魔化そうとしていたのに、あっさりと見破られてしまった。じっと見つめる彼に、リセの下手な隠し事など通用しそうに無い。
 意を決して、リセは口を開いた。
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