王子様のお世話役を仰せつかっておりますが。〜おせっかい令嬢は、隣国王子に執着される〜

彼の正体

 十年前。
 色とりどりの花が咲きほこる城のテラス。
 子供だらけのお茶会の隅っこ。
 独りぼっちで佇む少年の容姿に、リセの目は引き寄せられた。

「ねえ……!」

 あまりの感動に、リセは不躾に話しかけた。
 もちろん彼は驚いて、怪訝そうな目を向ける。

「突然ごめんなさい。あなた素敵ね。りんごの色をしているわ」

 そう、彼は赤い髪、白い肌、茶色い目をしていた。
 リセ自身は亜麻色の髪に茶色の瞳。何の変哲もない普通の容姿をしていたリセには、りんごのようにみずみずしい彼の色合いがとても魅力的に映った。

「リンゴ? なに? わからない」
「えっ……?」

 少し言葉を交わしてみると分かった。彼はどうやら異国から来た少年のようだった。言葉は片言で、きっとこちらの言葉はあまり理解していない。

「りんごは、ええと……あれよ」

 リセは、少し離れた場所にあるテーブルを指さした。プレートの上には、つやつやと輝くりんごのタルトが綺麗に並べられてある。

「りんごは……赤くて、丸くて、甘くて」

 リセは大袈裟なジェスチャーを加えて必死になった。『りんご』が何かということを彼へ伝えるためだけに。 

「私、りんご大好きなの」
「君、リンゴ、だいすき」

 伝わっただろうか。彼はリセと目を合わせながら、丁寧に復唱してくれた。素直な少年に、リセは嬉しくなってしまって。
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