甘いこと俺に教えてよ
第二話
〇冒頭・舞羽の部屋
冒頭ヒキ。見つめある舞羽と陵。
舞羽、驚いた表情で固まる。陵、無表情で動じない。
舞羽( 憧れの羽衣花先生が、男で……このイケメン⁉)
固まる舞羽、陵の背後。部屋のドアが乱暴に開く。
誠二「舞羽!どうした⁉叫び声が聞こえたが!」
息切れをしながら、舞羽の部屋のドアを開ける誠二。全速力で帰ってきた様子。服も髪も乱れている。
陵「あ、誠二さん……」
誠二「 やっぱり羽衣花先生! びっくりしたよ。家の前で倒れてるとかいうから。またいつものように倒れるなんて、またちゃんと睡眠取ってないんだろ?」※ 羽衣花が寝不足で倒れて寝てしまうのは日常的。担当の誠二は目の前で経験済み。
陵「ああ、ちょっと2日くらい寝れてないかもです」
誠二「二日⁉ちゃんと睡眠取らないとだめってあれほど言ったでしょう?」
親のように説教口調になる誠二。
舞羽をそっちのけで会話をする陵と誠二。
固まっていた舞羽が口を開く。
舞羽「待って!本当にこのイケメンが 羽衣花先生なの?お父さん!」
誠二「……ああ、彼が 羽衣花先生だよ」
舞羽「 羽衣花っていうからてっきり女性の作家さんだと……」
気まずそうな表情をする誠二。誠二の代わりに陵が口を開く。
陵「俺は……止めたんだよ。だけど、誠二さんがどうしても 羽衣花でいこうって」
誠二「 羽衣花には、羽という漢字が入ってるから、羽ばたいていけるようにって思ってな。舞羽にも入ってるだろう?」
舞羽「 羽衣花って言われたら、女性だと思い込んじゃうよ」
陵「 羽衣花が男でがっかりした?」
儚げな表情で舞羽を見つめる陵。
まっすぐに見つめられて、ドキッとする舞羽。
舞羽「そ、そんな!正直驚きましたけど……がっかりするとかは絶対にないです!」
哀しそうな表情の陵に、慌てて否定する舞羽。
陵「そっか、よかった。読者を悲しませたら嫌だったから」
優しく微笑む陵。※美しい顔のアップ絵。
舞羽(大人の女性だとばかり、勝手に思い込んでいたから少し驚いたけど…… 羽衣花先生が推しだということには変わりない!ただ…… 羽衣花先生の顔が綺麗すぎて、ドキドキしちゃう)
憧れの 羽衣花先生が目の前にいる事実と、陵の顔面がイケメンという事実に胸が高鳴る舞羽。
誠ニ「よしっ、みんなでご飯を食べよう!これから3人で仲良く暮らしていくわけだから……」
元気よく立ち上がる誠ニ。
誠ニの言葉に意味がわからない舞羽。
舞羽(一緒に暮らす……?)
舞羽「お父さん?何言ってんの?」
戸惑いながら口を開く舞羽。
誠ニ「倒れてたのには驚いたが、羽衣花先生は今日からこの家で暮らすんだよ」
舞羽「な、なにそれ!聞いてないよ!」
誠ニ「え?舞羽にちゃんと伝えたぞ?」
きょとんとする誠二。
◯回想シーン(自宅・リビング)
ある日の夕暮れ時。
リビングのソファに寝転がりながら小説を読む舞羽。
そんな舞羽に緊張した面持ちで話しかける誠二。
誠ニ「舞羽、大事な話があるんだ」
舞羽「なにー?」
小説を読みながら適当に返事をする舞羽。
舞羽(この展開、さすが羽衣花先生!先が気になる……)
誠司「父さんが担当する作家さんなんだけど、事情があってしばらくこの家に居候してもらおうと思うんだ……」
舞羽「いいんじゃなーい?」
相変わらず小説に夢中の舞羽。※誠ニの話は聞いていない。適当に返事をする。
誠ニ「い、いいのか?その子は男なんだ。すごく良い青年だけど、舞羽が嫌がるならこの話は……」
舞羽「いいんじゃなーい?」
舞羽(うう、羽衣花先生最高です。もう……良すぎる)
小説に夢中の舞羽。誠二の話は聞いていない。
(回想シーン終了)
〇元の現代へ
気まずそうな表情を浮かべる舞羽。
舞羽(全く覚えてない。日ごろからお父さんの話を適当に聞いてきた罰かも)
誠二「 羽衣花先生はご両親と住んでいたんだけど、お婆様の体調がよくないから、ご両親揃って地方の田舎に帰るそうなんだ」
陵「地方に一緒についていっても、まあいいかとも思ったけど。環境が変わって執筆に影響出たらいやだなあって。それに、卒業まで一人暮らしするくらいのお金はあったから……こっちに残ろうかなって」
舞羽「一人暮らし……する余裕あるんですか?」
陵「まあね。だけど……誠二さんが」
誠二、両手で✕のマークを作り、大きく首を振るデフォルメ絵。
誠二「 羽衣花先生が一人暮らしなんてしたら大変なことになるよ」
青ざめる誠二。
舞羽「大変なことって?」
誠二「羽衣花先生は、衣食住に興味が薄くてなあ。執筆に夢中になってると、食べることも寝ることも忘れちゃう人で……。今までは俺と陵くんのご両親と協力して、執筆環境を整えてきたんだ。それでも、道端でいきなり寝てしまったりとか」
道端で倒れる陵のデフォルメ絵。
誠二「連絡が取れないと思ったら、電車で居眠りして見知らぬ土地までいってしまったとか」
人が誰もいない田舎の駅でたたずむ陵のデフォルメ絵。
誠二「もう……数えきれないほど大変だったんだから。 羽衣花先生に一人暮らしは、担当としてさせられないよ」
舞羽(そっか、でも……年頃の他人。ましてや男性と一緒に住むなんて……)
誠二の話を聞いても、戸惑う舞羽。
誠二「舞羽? 羽衣花先生の執筆環境見れるぞ?」
こっそり舞羽だけに耳打ちする誠二。
舞羽(羽衣花先生の執筆見られる?)
表情をぱあーっと明るくさせる舞羽。
舞羽「 羽衣花先生、ようこそ我が家へ!」
さっきまでの曇る表情を一変させる。
手を広げて歓迎のポーズをする舞羽、誠二のデフォルメ絵。
〇舞羽の部屋
ベッドに入り仰向けで天井を見つめる舞羽。
推しの 羽衣花先生が同じ家にいるという事実に、胸を躍らせる舞羽。
舞羽「 女性じゃなくて、驚いたけど。あんなにイケメンだとは……」
舞羽「そして、この家に 羽衣花先生がいるなんて……」
ベッドの中でじたばたして悶える舞羽。
〇場面転換・次の日・リビング(朝)
寝起きの舞羽。
寝ぼけた顔で起きてリビングにやってくる。
舞羽「おはよ……(あくび)」
舞羽、あくびをしながらいつものようにやってくる。
ハッと思い出す。
舞羽「あ、 羽衣花先生いるんだった。どうしよう。着替えて髪の毛も直さないと!」
急に焦りだす舞羽。
誠二「あー。 羽衣花先生なら、先に学校いくって早朝に出ていったよ」
舞羽「そっかいないんだ……ん?学校って?」
誠二「ん?言ってなかったか? 羽衣花先生は、高校三年生。舞羽と同じ高校に通ってるよ」
舞羽「えー!聞いてないよ。わたしの先輩ってこと?」
誠二「ありゃ?言うの忘れてたか?」
申し訳なさげに言う誠二。
舞羽(想像よりかなり若いなあ、とは思ったけど……高校生で小説家?)
驚いた表情で考え込む舞羽。次の瞬間、 ふにゃりと綻ぶ。
舞羽(さすが 羽衣花先生、かっこよすぎでは……)
にんまり悶える舞羽。
〇場面転換
制服を着て、お弁当を詰め終わる。※舞羽がお弁当を作ってる設定。
誠二「 舞羽、お父さん用に作ってくれた弁当を 羽衣花先生に持っててくれるか?」
舞羽「 羽衣花先生に……!も、もちろん!」
舞羽(堂々と学校での 羽衣花先生を探すチャンス!)
お弁当二つの絵。
舞羽「あー。こんなに適当じゃなくて、もっとちゃんと作ればよかった」
舞羽父「舞羽、父さんのお弁当は適当なのかい? でもありがとうな。いつもおいしいよ」
適当と言われ、涙を流す舞羽父のデフォルメ絵。
〇学校(昼間)
校内、三年生の教室近く。
ブレザーを着た舞羽。
ひょっこり顔を出して、三年生のクラスを覗く舞羽。
舞羽(三年生の教室に行くの緊張する。……これを羽衣花先生に渡さないと)
視線を下に移す舞羽。お弁当箱のアップ絵。
きょろきょろする舞羽。
三年のクラスからひょろりと出てくる陵。体がふらついている。※ブレザーをだるそうに着ている。
舞羽「ういか……じゃないや、り、陵先輩!」
陵に声を掛ける舞羽。
ゆっくり振り向く陵。※眼鏡をかけて、髪の毛はもっさりしている。家で見た時と別人。
舞羽( 羽衣花先生、眼鏡姿だ……)
陵「娘ちゃん……どうした?」
舞羽「娘ちゃんってやめてください。舞羽って名前がありますから!えっと、眼鏡姿なんですね。あと、髪型も違いません?」
陵「あー、髪型はわざとこうして、顔を隠れるようにしてる」
舞羽「なんでですか?」
陵「変に目立ちたくないから」
きっぱりという陵。
舞羽(確かに、美形なことバレたら女子が放っておかないよね」
陵「……で、どうした?」
冷たく返す陵。
舞羽「え、えっと、お弁当を……」
持っていたお弁当を渡す舞羽。
じっとお弁当を見つめて無言の陵。
陵「……」
舞羽「えっと、違いますよ? お父さんが陵先輩がちゃんと食べてるか心配して、渡せって言われて」
反応が薄くて焦って弁解する舞羽。
陵「……嬉しいよ。朝から何も食べてない」
無表情だった顔が少しほころぶ。
舞羽「えー。朝から食べてないんですか?倒れちゃいますよ!これ、私の分もどうぞ! 高校生男児なら二人分のお弁当食べれますよね?」
陵「いいの?」
舞羽「はい。私は適当に食べるので!」
陵「……ありがとう。お腹すいてたから嬉しい」
柔らかく微笑む陵。
舞羽( 羽衣花先生って、基本無表情だけど、うれしいときとか表情に出てわかりやすいよね)
陵をじっと見つめる舞羽。
〇場面転換・教室・放課後(夕方)
ホームルームが終わり帰宅する生徒たち。
女子生徒「舞羽、ばいばーい。また明日ね」
舞羽「うん、ばいばーい」
クラスメイトの女子に挨拶をして、舞羽も鞄を持ち帰宅しようとする。
スマホのバイブレーションが鳴る。
舞羽「誰からだろう?」
メールが届く。スマホの画面に切り替え。
メールを見て驚いた顔をする舞羽。
舞羽「えっ!これって……どういうこと⁉」
困惑顔で呆然とする舞羽のアップ絵。